LOGIN10分後。
「おえ本田、お前を仲間に入れたったんは他でもない」
改めて健太郎が、やっと落ち着いた本田に向かって話を再開した。
藤原はまだ笑いのツボが取れきれず、時折肩を震わせていた。
「お前の持っとる銃や。あるだけ見せてみい。そん中で使えそうなやつを俺らが選ぶ」
「う、うん……」
本田が押入れの中から、大きなダンボールを引きずってきた。
箱を開けると、男なら誰もが憧れる金属とオイルの匂いが鼻をついた。
その匂いに、ようやく藤原も笑いのツボが取れ、好奇まじりの緊張感溢れる男の顔になった。
健太郎が手を入れ、無造作に物色を始める。
「なるほどなるほど、闇でトカレフは定番やのぉ……それと……何しろ石像と戦うんやからな、半端な武器では勝てん。もっとええもんは……おおっ、何やお前、ベレッタなんか持っとったんかえ」
「そやけどそれ、僕もまだ試射してへんやつばっかりなんやで。そんなんまで健ちゃんに渡さなあかんの」
「ひつこいやっちゃのぉお前は。何遍言うたら分かるねん。藤原の大事な大事な母ちゃんと妹を助ける為やないかえ。人助けにそんな訳の分からんこだわりは捨ててまえ」
「そやけど健ちゃんは、涼子ちゃんを助ける為だけに行くんやろ。なんで僕までついていかなあかんの」
「まだ言うんかえこのアホは……おぉそやのぉ、何ならお前、もうええわ。武器さえ手に入れたらこっちのもんや。帰ってええぞ」
「ここ、僕の家なんやけど……」
「ほぉ……うまい具合にハンドガンが五丁かえ。そやけど全部自動式拳銃〈オート〉か。おえ、回転式拳銃〈リボルバー〉はないんかえ」
「僕、リボルバーはあんまし好きとちゃうねん」
「なるほど、こだわりっちゅうやつやな。そやけどお前、オートはジャムったらしまいやぞ」
ジャムるとは、自動式拳銃〈オートマチック〉で薬莢が正常に排出されず、挟まって次の弾が出なくなる状態のことである。
その点回転式拳銃〈リボルバー〉は、薬莢を排出せずに次の弾を撃てる為、信頼性が高いと言う意見も多い。
「僕の手入れした銃は絶対大丈夫やもん」
「言うやないかえ。おおっ、メリケンサック入りのバトルグローブかえ、さすが現役中二病やないか。これは藤原と直美ちゃん向きやな。
ほおぉっ、ダイナマイトまであるやないか、それに硫酸に青酸カリ……お前、テロリストにでもなるつもりやったんか」
「んな訳ないやんか。そやけど僕が一生懸命集めた宝物なんやで。勝手に無茶な使い方されたら嫌やねんけど」
「何や、ほんだらお前も行くんかえ」
「……う、うん……分かった、行くよ」
「よっしゃ。あんましあてにはでけへんけどな、まぁ頭数っちゅう事で同志にしちゃる。ええな、藤原」
「お前はほんま、強引やのぉ……」
藤原が、半ば呆れた表情でそうつぶやいた。
「何言うてんねん、可愛い妹の為なんやぞ。こんなんで強引やっちゅうてたら、夜のミナミになんか行かれへんぞ」
「……まあ、そう言われればそやけどな……本田、ほんまについて来るんか」
「うん。大丈夫、僕もついてく」
「ほんだらええけどな。あくまで自分の意思に従ってくれや。強制はしたないから」
「何言うてるんや。本田が是非仲間にしてくれっちゅうて頭下げて頼んどるんやないか。喜んで、気持ちよぉ同志にしたろやないか」
「……分かった」
「よっしゃ、決まりや……と、それはええねんけど本田、さっきからお前、何押入れん前に立っとるねん」
「……え? ううん、何も隠してへんよ」
「そうかそうか、何も隠してへんのか……おえどけっ!」
健太郎が本田を蹴飛ばして、押入れを一気に開けた。
「あ……」
またしても、本田の顔が青くなる。
「ほおおぉっ……何も隠してへんてか……そかそか……おえ本田、俺、え~もんめっけたぞぉ」
「やめてやめて」
「じゃかましわいボケっ! これは何やねんっ!」
押入れに腕を突っ込み、健太郎が中からマホガニー製の長細い箱を出した。
「な~にが入っとるんかの~」
泣きそうな顔の本田を無視し、健太郎が箱を開けた。
中はビロードの内張りが見事に施されており、そこにポンプアクションのショットガンが納まっていた。
「こないええもん持っとったんかえ……何隠しとるんじゃこのボケがああああああっ!」
「ぶっ……」
再び健太郎の右ストレートが炸裂した。
「おえタコ、これも使うからな」
「け……健ちゃん頼むから、後生やからこれだけは堪忍して……それは僕の命の次に大事な宝物やねん」
「じゃかぁしわいこのエロザルがっ! これあるとないとでは戦力も桁違いなんじゃ!
……そやけどこいつ、ちょっと銃身が長すぎるな。実戦仕様に変えとくか……おえサナダムシ、これ以上殴られたなかったらな、ポエムアップされたなかったらな、今すぐ糸ノコ出せ。ちょっとストック切っちゃる」
「け……健ちゃん……」
「は~よせ~えや~」
本田がベソをかきながら糸ノコギリを持ってきた。
それを奪い取ると、健太郎が無造作に木製部分を切り出した。
「あ……ああ……」
本田が崩れ落ちる。
数分足らずで本田の宝物は、無残な姿に変わり果てた。
「よっしゃ、こんぐらいでええやろ。これやったら近接戦闘になっても小回りがきくっちゅうもんや。おえ本田、こいつは俺が責任を持って預かっちゃるからな」
健太郎が満足そうにほくそ笑んだ。
藤原は泣きじゃくる本田の肩を抱いてあやす。
「すまんな、本田」
「うん……ありがとう藤原君、大丈夫やから」
本田が瞳をうるうるさせて藤原を見つめ、力なく笑った。
「……後は坂口さんやな。今時間は……おお、なんやかんやでもう3時かえ。おえ本田、なんか食わせろ。腹減りすぎて死にそうや。なんでもええ」
「ピザでも頼む?」
「ぼけええええええええっ!」
「ぶっ……」
またまた右ストレートが炸裂し、本田が血を吹いてのけぞった。
健太郎が鬼の形相で立ち上がり、本田を見下ろして吠えた。
「おどれは今まで何聞いとったんじゃこの鼻糞がっ! 電話は危ないからあかんっちゅうとるやろうがっ! まだこの辺は大丈夫らしいけどな、そやけど念には念を入れとかんと、いきなりお前が石像になったらどないするんじゃ! なんか作れ!」
「……う、うん……分かった……」
鼻血を拭きながら、本田が台所へと歩いていく。
「……おい健。お前ほんま、自分より立場の弱いやつにはとことん強気やのぉ」
「当たり前じゃ、弱肉強食が地球の鉄則じゃ。今から飯食って……寝屋川やったら1時間ぐらいか。坂口さんおってくれてたらええんやけどな。まさか電話でアポ取る訳にもいかへんし、こんな時はほんま、不便やのぉ、携帯使えんっちゅうんは……
おえ本田、何があるねん」
「レトルトカレーしかないけど……」
「何でもええ、はよ作れ。それにしてもこの部屋、玄関がないせいか冷えるのぉ。おえ本田、ストーブぐらいつけたらどないやねん。全く無愛想なやっちゃで、客が来とるっちゅうのに」
「……ごめん」
「そうや本田、こんだけ銃は揃っとるけどな、弾はあるんか弾は」
「うん、銃1丁にマガジン5つずつついてる」
「5つか……まあええか。おおっ、鉈まであるやないか、ゾンビ映画のまんまやんけ。よっしゃ、あとは坂口さんの知恵次第やな」
「健ちゃん」
「なんやサル」
「笑われるかも知らんけど……ひとつだけ頼みがあるんやけど、聞いてくれる?」
「おぉ何や、言うてみい」
「僕、出来たらタイガーストライプの迷彩服着て行きたいねん」
「はぁ?」
「こんな時ぐらいしか着られへんもん」
「ほんまお前、訳の分からんこだわり持っとるのぉ。まぁええ、好きにせえや」
「よかった。折角戦争するんやもん、格好ぐらいつけたいし」
「わぁったわぁった」
「おい健」
「何や」
「その迷彩、俺も着てええか」
「藤原お前もかえ……おえ本田、その迷彩っちゅうんはどんぐらい持っとるんや。藤原も着たいっちゅうとるわ。どうせや、俺も坂口さんらも着ていくわ」
「ええよ、迷彩服はようさん持ってるから。あ~、何かゲームやってた頃思い出すわ」
「訳の分からん感傷にふけるなこのエテ公が。おおっ、でけたか。食お食お。ほんで食い終わったら坂口さんの所に突撃や」
「うん」
「ごめんな本田」
「うん……でも、やっぱり大事な友達が困ってるんやもん、やっぱしここは踏ん張って男らしさ見せんとね」
「そう言うこっちゃ。やっと物分りがよぉなったやないかえ、ダークジェノサイト様」
「だから健ちゃん、それやめてって。僕の命の次に大事なショットガンまで貸すんやから」
「あぁあぁ分かった分かった。よっしゃ、ほんだら食お食お。腹減ってたら戦もでけんからな」
「そやな」
「おえ、お前ら」
健太郎が手を差し出した。
「おおっ!」
「うんっ!」
三人が手を合わせた。
その時だった。
家の外から拍手と歓声が起こった。
何事かと振り返ると、そこには近所の住人たちが集まっていた。
「ええぞええぞっ! それでこそ日本男児やっ!」
「頑張れやっ!」
トカレフの流れ弾を食らい、頭から血を流している老人も惜しみなく拍手を送る。
「わしもお役に立ちたいんじゃがな、何しろこの歳じゃ……代わりに奮励努力……してく……れ……」
言い終わると、老人は事切れて崩れ落ちた。
「こ~ろした~こ~ろした~♪ 明ちゃんが~こ~ろした~♪」
皆が歌いだした。
「心配すんな、じいさんの死体はどっかに埋めといたる」
住人たちは玄関で、一部始終を聞いていた。
拍手が更に大きくなると、健太郎が照れくさそうに手を上げた。
「ありがとさんです、ありがとさんですっ! 気合入れて戦ってきますよって、応援よろしく頼んますっ!」
「おおっ! 気合やぞっ! 明ちゃんも頑張れやっ! ふんばらんとダークジェノサイトの名が泣くでっ!」
「うわああああっ」
「うはははははははっ!」
歓声が笑い声に変わった。
健太郎が言った。
「気合入れてきますわっ!」
「おおっ! 頑張れやっ!」
一人が白飯を持ってきた。
「カレーだけやったら力もつかんやろ、差し入れじゃ、食え食えっ!」
「すんませんっ!」
住人の拍手と歓声の中、三人が照れくさそうに笑いながらカレーを頬張った。
半年後。戦いは終わった。数百万の犠牲を払った大阪に、少しずつ活気が戻りつつあった。事件の真相は当然、誰にも分からない。全てを理解しているのは、藤原と涼子だけ。そして二人が、それを口外する事はなかった。* * *徘徊していた数百万にも及ぶ石像たちは皆、元の姿に戻っていた。しかし坂口の言っていた、「首謀者を倒せば、呪いが解けて皆が助かる」と言う言葉は、残酷な答えとなって返っていた。確かに元の姿に戻りはしたが、脳味噌を排出した人々が再び蘇生する事はない。市内は数百万人の死体の山、ゴーストタウンと化していた。学者たちは頭を悩ませ、連日この惨劇を巡っての議論が続いた。だが誰一人として、答えにたどり着くものはいなかった。藤原は思っていた。(呪いからは解き放たれた……魂っちゅうもんがあるんやったら、みんな、安らかな眠りについた筈や……そうや、絶対そうや……)* * *雲ひとつない透き通る青空を、ベンチに座って見つめている藤原と涼子。藤原が涼子の頭を優しく撫でた。「お兄ちゃん、屁たれにだけはなりたくないね」涼
爆発が起こった。衝撃で部屋が揺れる。「なるほど……健太郎さんにしては、なかなか格好いい最後だったようですね、ふはははははははっ!」「くっ……健っ……!」素早くマガジンチェンジを行い、藤原が雄介目掛けて発砲する。その藤原の体を、雄介の鋭い視線が容赦なく切り刻んでいく。* * *その時、爆発音に妖しい眠りから覚めた涼子の視界に、雄介と戦う藤原の姿が映った。「……お……お兄ちゃん……」涼子が体に巻かれたコードを外そうとあがく。幸いにもコードは緩く締められていて、何度か試みている内に外す事が出来た。―涼子の目に、床に転がる鉈が映った。涼子が鉈を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。「ふはははははははっ! 藤原君、そろそろお別れの時ですね! 僕を裏切った事、あの世で後悔してください!」涼子が鉈を振りかざし、雄介の後ろに立った。藤原は壁にもたれかかり、諦めきった表情で両腕をだらんと下ろした。「よりによって、屁たれのクソダコに殺られるとはな……」「死ねっ!」その時だった。「やああああああああっ!」
雄介が拳を握り締め、わなわなと肩を震わせた。レースでよく見えないが、泣いている様に見えた。そしてしばらくすると天を仰ぎ、藤原への思いを断ち切る様に笑い出した。「あっはっはっはっ!」虚しい笑い声が、室内に響く。「分かりました……僕には……僕には友達なんかいなかったと言う事ですね……じゃあ僕は何ら遠慮する事なく、この力を持って世界の頂点に登ります……やはり頂点は一人なんですね……まずは健太郎さん、あなたです……あなたには最高の舞台を用意しましょう……直美さんっ!」「何……直美ちゃん、やと……」雄介の声にバスルームの扉が開き、中から直美がゆらりと姿を現した。「直美ちゃん……無事やったんかえっ!」「待て健」身を乗り出して叫ぶ健太郎を、藤原が制した。「よお見てみい、目が死んどる」「な、直美ちゃん……」「彼女はもう、僕の忠実な下僕です。彼女の能力は素晴らしい物です。石像にしてしまうには余りにも惜しい、そう思いましてね。彼女にはその姿のまま、僕の番犬になってもらったんです。さあ直美さん! まずは健太郎さんを殺して下さい!」その声に、直美の肩がピクリと動いた。&nbs
10分後。「ええ加減にさらさんかえこのボケッ!」健太郎が藤原の後頭部を張り倒した。「ごっ……!」衝撃で目から火を出した藤原が、思わずうなる。そして静かに、大きく深呼吸すると手を挙げ、二人に言った。「すまん、ちょっとタイムや……」ポケットから煙草を取り出し、くわえて火をつける。「ふううううぅっ……」白い息を吐き、眉間に皺を寄せ、天を仰ぐ。「……よし、もう大丈夫や……いわちゃき、いや、岩崎雄介やな、分かった……」煙草を床に捨て、踏み消した。「……そやけど、岩崎雄介……そんなやつ、俺知らんぞ。訳の分からん事ぬかしやがって……それも人の事、馴れ馴れしぃ呼びくさって」「正気に戻ったかえ。そやけどちょっと待てや、その話は後や。おえ屁たれ! 先に俺が質問するっ! お前がどないして、そんな訳の分からん能力を得たんか、まずはそっからや! さあ、答えたらんかえっ!」健太郎が雄介にショットガンを向けて吠えた。健太郎の問いに、思考が停止していた雄介もようやく我に帰った。「……い、いいでしょう&
銃を構えた藤原が、部屋に足を踏み入れたその時だった。「藤原、目えつむれっ! やっぱしやつはゴーゴンの力を持っとった! 顔見たら石にされてまうぞっ!」健太郎が大声で叫んだ。「……分かった」藤原が静かにうなずき目をつむり、安眠マスクをしようとした。その時だった。「藤原君! 心配しなくていいよ! 君に危害を加える様な事は絶対にしない! する訳ないじゃない! さあ、目を開けて!」雄介の狂喜する声が響いた。「何を! 騙されるかえっ!」「……大丈夫、僕は顔にレースをかけます。そうすれば石になる事はありません。健太郎さんも大丈夫ですよ、マスクを取ってください」藤原が恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。すると雄介の言う通り、彼は顔に黒いレースをかけていた。頭にはシュルシュルと蛇が動いているのが見える。「おい健、大丈夫や。お前も目ぇ開けろ」藤原の声に、健太郎も安眠マスクをゆっくり外した。「……」藤原には、所狭しと張られている自分の写真、散乱しているコードや倒れている涼子の姿は見えなかった。彼の目に映ったもの。それはその場に転がっている、坂口の無残な生首だった。「坂口さんも……やられたんか……」「お
13階でドアが開いた。ショットガンを突き出しながら、健太郎が素早く左右に目を這わせた。坂口は十字架を天高く掲げ、健太郎に続く。その時、またあの声が聞こえてきた。「心配ありませんよ……ここに石像はいません……いるのは僕だけです……」「くっ……こんガキ、とことん挑発してけつかる……まあええ、行ったろやないかえっ!」健太郎が吠え、大股で藤原の部屋に向かった。声の主の言う通り、石像に遭遇する事無く、二人は藤原の部屋の前に立った。健太郎と坂口が顔を見合わせ、互いにうなずく。その時、玄関のドアが静かに開いた。「坂口さん、行きまっせ!」「分かった!」二人が同時に足を踏み入れる。「な……」健太郎が我が目を疑う。そこは既に、健太郎が知る藤原の家ではなくなっていた。バスルーム以外の壁が全てなくなっており、3LDKの部屋が大きな一室になっていた。そして至る所に、藤原の写真が所狭しと貼られていた。「な……なんじゃこの部屋は……藤原、藤原だらけやないか……あいつ、こないナルシストやったんかいな&hellip